2011年8月28日日曜日

ハウスメイド

これいいな。官能的なアダルトな世界は誰もがもっています。

『浮気な家族』(03)や『ユゴ 大統領有故』(05)のイム・サンス監督が放つ、強烈な官能サスペンス映画『ハウスメイド』(8月27日公開)。時代を経ても語り継がれるキム・ギヨン監督の『下女』(60)をリメイクした本作は、衝撃的なクライマックスに思わず息を飲む。そこで来日したイム・サンス監督に、エロスとサスペンスを引き出す技について聞いてみた。

【写真をもっと見る】官能的なラブシーンにもトライしたチョン・ドヨン

主人公のウニは、上流階級の邸宅に雇われたメイドで、家主と不倫関係に陥る。その後、身ごもった彼女に対し、周りは恐ろしく残忍な報復手段に出る。リメイク映画でも、脚本にはサンス監督によって大胆なアレンジが加わった。主演は『シークレット・サンシャイン』(07)で韓国人初となるカンヌ国際映画祭女優賞に輝いたチョン・ドヨンだ。監督は言う。「ドヨンにはミニマルな演技を要求しました。難しかったと思いますよ。通常、俳優は思い切り声を張り上げたりするような確実な演技をする方が手応えや達成感を感じますから。ドヨンはそれらを排除し、最後まで私の考えに従ってくれた。誰にもできることではない」。

イム・サンスといえば、細かい演出で知られる監督だ。「でも、大部分は役者さん任せです。たとえば、ウニが朝食を持って主人の部屋に入るシーンが2回あります。1回目は『おびえた道端のネコのような演技を』と言ったら、ドヨンはキョロキョロしながら、そういう表情をしてくれました。2回目は主人と関係を持った後の日で、『彼とセックスをした後だってことを意識してください』と指示をしました。そしたらドヨンは胸を張って、堂々と愛を交わした男性のもとへ行くという演技を見せてくれて。本当に彼女は素晴らしいです」。

官能的なシーンが激しいほど、サスペンスも盛り上がりを見せる。「セックスシーンについては、撮る度に悩みます。他の監督さんがやっていない新しいやり方で撮りたいと思っているから。しかも、俳優が脱いだシーンをなるべく削りたくない。でも、興行のための不要なセックスシーンは入れたくないし。今回はメイドと主人の不倫という、よくある設定に、観客をどう集中させるかを考えた時、官能とサスペンスが重要な要素だと思いました。本当はしてはいけないセックス。隣の部屋で奥さんが寝てるのに、ふたりは抑え切れずにこっそりと愛を交わし、それを観客も目撃する。そういったところからサスペンスが生じるんです」。

確かに本作では、ふたりの逢瀬をのぞき見しているような感覚に陥る。「他人のセックスをのぞき見するのは、ハラハラドキドキしますね。実際、本作を取りながら、新たに学んだ点があります。サスペンスは決して画面の中だけで繰り広げられるものではなく、観客も一緒に参加するものなのだと。今回、参考にしたヒッチコック監督は本当に偉大でした。私は今後もこのサスペンスという技法を上手く使っていこうと思ってます」。

本作で、サンス監督は韓国の歪んだ上流社会を斬っている。「韓国では上流社会の人たちが、カーテンの後ろに隠れながら韓国の政治や社会を牛耳っています。財閥の人たちは、政治家よりも強大なパワーを持っていて、今、重要な問題となっています。だから、この映画の中で、その問題を扱いたかったんです」。話題騒然のすさまじい結末については「衝撃を与えることのない、味気ない映画は好きじゃない。私はあまり良い人じゃない、けしからんヤツですから」とニヤリ。いやあ、確かにやられましたよ。でも、今後もけしからん監督として、どんどん刺激的な野心作を放っていってください。【取材・文/山崎伸子】