これは、いい映画かもしれないぞ。
映画『恋におちたシェイクスピア』や『Queen Victoria 至上の恋』などでおなじみのイギリスの監督ジョン・マッデンが、新作『ザ・デット(原題) / The Debt』について、映画『ツリー・オブ・ライフ』に出演し、現在注目の女優ジェシカ・チャステインとともに語った。
同作は、1965年にイスラエルの秘密情報機関モサドで働く若き工作員3人(ジェシカ・チャステイン、サム・ワーシントン、マートン・コーカス)は、ナチスの残党幹部で現在は医者である人物を捕らえる使命を受けるが、使命の途中で逃げられてしまう。だが、その30年後にウクライナでナチス党員が見つかったという知らせで、すでに引退していたこの元工作員の3人の秘められた謎が暴かれていくというサスペンス・スリラー作品。上記の俳優以外に、工作員の30年後の役を、ヘレン・ミレン、キアラン・ハインズ、トム・ウィルキンソンなどの演技派が演じている。ちなみに、この映画はイスラエルのサスペンス映画『Ha-Hov(原題)』のハリウッド版として描かれている。
まず、イスラエルの作品をハリウッド版として制作することになった経緯についてジョン・マッデン監督は「イスラエルで制作された映画『Ha-Hov(原題)』は、限られた地域だけで公開され、より多くの観客にこの映画を観てもらいたいという意思から、今回の制作が決まったんだ。まず、映画『X-Men :ファースト・ジェネレーション』のマシュー・ヴォーン監督が、この映画のリメイク権を獲得し、脚本家ジェーン・ゴールドマンとともにアメリカ版として脚色していたが、この二人とも映画『キック・アス』の製作で忙しくなってしまって、そこで僕に白羽の矢が立って、この脚本が送られてきたわけなんだ。ただ、いったん僕が監督することになってからは、映画『ヤギと男と男と壁と』の脚本家ピーター・ストローハンとともに脚本を改稿していくことになったよ」と興味深い題材を急きょ依頼されたそうだ。
これまでブロードウェイなどの舞台が多かった女優ジェシカ・チャステインのキャスティング過程について「まず、最初にヘレン・ミレンをキャスティングしたんだ。もちろん、彼女以外にも重要なキャスティングができたが、ヘレンのおかげでこの映画が製作できることになった。その次に、このヘレンの若い頃を演じる女優のキャスティングが問題になったんだ。そこで僕は製作会社に、僕の意思でほぼ無名の女優をキャストしたいと告げたんだ」とジョンが語り、さらに「ジェシカはジュリアードで学んだ後、数多くの舞台経験をしている。そのうえ、彼女はこの作品の前に(この時は未公開だった)テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』に出演していて、それらの要素を理由にプロデューサーたちを説得したんだよ(笑)。彼女は、どのような役でもその役にとけ込んでしまうほど素晴らしい女優で、僕の好きなタイプの女優でもあるんだ!」と明かし、シェイクスピア・カンパニーのアート・ディレクターとしても働いていたことのあるジョンが、ジェシカが今後要注目の女優であると教えてくれた。
映画内でジェシカのキャラクター、レイチェルは、秘密情報機関の工作員として、身体的な能力を強いられる。「特にわたしは、台詞なしの演技で感情を伝える機会が与えられることが好きなタイプの女優なの。そんな機会は真実の瞬間で、すべてを現実的に演じなければいけないの。けれど今作は、秘密情報機関の工作員としての戦闘シーンが最も難しかった。私生活でも人をたたいたことはないし、格闘の訓練もしたことがなかったから、約4か月もの間トレーニングをして、この役に挑戦することになったわ」とジェシカが明かした。映画内でのジェシカの身体的能力には目を見張るものがあるが、さらに感情移入した演技力も魅力になっている。
最後にジェシカは、マートン・コーカスとサム・ワーシントンの間で、ラブ・ロマンスを演じられるシーンがあるなんて、とても幸福だったわと笑顔で答えていたのが印象的だった。ジョン・マッデンの次回作は、映画『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテルとタッグを組んだ映画『ザ・ベスト・エキゾティック・マリゴールド・ホテル(原題) / The Best Exotic Marigold Hotel』が控え、一方、ジェシカ・チャステインは、アル・パチーノと共演した『ワイルド・サロメ(原題) / Wilde Salome』が控えている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)