この映画は話題になってるんだな。
「監督失格」は異色ドキュメンタリー「由美香」(平成9年)で注目された平野勝之監督(47)の11年ぶりの新作。深い因縁でつながったAV女優、林由美香の死による喪失感と、そこからの再生をつづった力強いドキュメンタリーの傑作だ。製作には、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野(あんの)秀明監督(51)が名を連ねている。
由美香は平成元年にデビュー。ピンク映画などで存在感のある演技を見せて人気を得たが、17年に34歳で死去した。
作品の前半は「由美香」を再編集した映像。当時恋愛関係にあった平野監督と由美香が、自転車で東京から北海道・礼文島を目指す。詩情豊かな風景描写と、過酷な旅で激しく衝突を繰り返す2人の姿が今も強いインパクトを与える。
「60時間分の素材を見直した。今はいない、かつて好きだった人の映像を見つめるのはきつかった」
一般公開された「由美香」は高い評価を得たが、すでに2人は別れていた。その後、題材を見失って低迷する平野監督と、由美香の精力的な活躍が対比して描かれる。そして、飲酒と睡眠薬の服用が重なった由美香の事故死。
当時、平野監督は作品の撮影中で、死の翌日、彼女の自宅で取材を行う約束だった。平野監督は助手とともに、彼女の家に向かい、ある衝撃的な映像を撮影してしまう。
「僕は、あのときショックで撮影を放棄した。『止めろ』と助手に合図する僕が写っている。あの映像は僕の意志を超えて記録されたもの」
映像を抱え込み、5年間沈黙を続けた。しかし、作中で平野監督は回想する。自転車旅行で、2人のけんかの撮影をためらった自分に、由美香が「監督失格だね」といったのだ。
「残された映像は、僕に『作品を作れ』といっているとしか思えなかった」
苦悩にまみれた編集作業の様子は、本編にそのまま描かれている。「この作品は彼女のお葬式。これでようやく次に進める気がする」。3日からTOHOシネマズ六本木ヒルズで先行ロードショー。